編集長 伊集院光の一言 もう10年近く前になるだろうか、バブリーなクイズ番組に出場し、商品として国産マツタケを10キロもらった。当時一人暮らしで、友人関係も少数精鋭タイプだった僕に10キロのマツタケは途方も無い量で、とりあえず呼んだ友人二人と一緒に網焼きなどにして食べてみたが一向になくならない。 「バター焼きにしてみようか」「でも折角の風味がもったいない」「それじゃ鍋でも」「高級なマツタケに見合うほどの肉を買う金は無い」「土瓶蒸しってのがあるらしいじゃないか」「すまん。勉強不足でそれが一体どういうものなのかがわからない」侃侃諤諤やっているうちに、だんだん腹が立って来た。「なんで俺達はマツタケに気を使わされているんだ!」「冗談じゃない!丹波産だか最高級品だか知らないが、俺達がおまえに合わせる理由は無い!」クーデター勃発である。 「このマツタケのプライドをずたずたにする食べ方を考えよう」「しいたけの肉詰みたいに安いひき肉を詰めてやるのはどうだ」「それもいいがペーストにしてパンに塗るというのは」「それだとこの量は食べきらない、第一マツタケトーストはまずそうだし、 日ごろ僕らの食卓を支えている食パンを巻き添えにしては申し訳が無い」作戦会議の結果、決定した献立は「マツタケカレー」だった。 レトルトのカレーをたくさん買ってきて鍋でぐつぐつやる。よもやその中にぶち込まれるとは思ってもいないブルジョアジーを良く洗い、手ごろな大きさにざくぎり、躊躇する友達を「ここまできたんだ、いまさら引けるか!?」とばかりに制してドボドボドボドボ、コトコトコトコト、カレーの強い香りに風味もヘッタクレもあったもではない、ものの数分で丹波産高級マツタケはただの「きのこのカレー」と相成った。 人数分のカレー皿も無いのでどんぶりの盛られたカレーを「討ち取ったりぃ!」とばかりにいただいた。「うん。まずくは無いけど、きのこのカレーならマッシュルームのほうがうまいね」「そうだね、歯ごたえはいいんだけど、上品過ぎるね」「肉厚過ぎてカレーが中まで染み込まないっていう弱点もあるね」高笑いしながら食べた。完全勝利だった。 この完全勝利に気をよくした僕らの元に今度は「三崎沖産本マグロトロ5キロ」が攻めてきた。またもやクイズ番組の賞品だ。勝利者は勝ちつづけてこそ勝利者である。 もしここでトロ鉄火丼あたりを作ってグルメを気取った日には前回のマツタケに申し訳が無い。あくまで僕らはプライドのために戦う決心をした。 今度は「ツナサンド」が作られた。「ツナにするには脂身が多いね」「もうちょっとマヨネーズを入れようか」「脂っこい分キュウリがうまいね」今回も完全勝利で2連勝、あれ以来我が家に高級食材軍が進行してくることは無いが、もし「最高級松坂牛サーロインステーキ用1キロ」が攻めて来たら、薄切りにして焼きうどんに投入してやるつもりだ。 (以上、全文1,182文字÷テーマ「高級食材」4文字、295倍返しでお送りしました。) バックナンバーへ募集中! 7文字で50倍返し! 戻る